火葬後の死者の遺灰(遺骨)を墓地や墓石に埋蔵しないで海や山に撒く自然葬は歴史的には古代以降永い中断の後に復活した葬法であるが、大都市圏の住民を中心として一定の広がりを持っていることをこれまでの研究において明らかにした。これに対して伝統的な葬送文化(葬制)の根強い地域社会ほど自然葬は浸透し難いであろうと想定し、祖先祭祀の信仰と深く結びついた葬制である遺骨埋葬の葬制がその違背に対する厳しい社会的制裁を伴う習俗として堅く守られていると言われる沖縄県内のいくつかの島嶼において自然葬の浸透の程度についての質的研究を進めたところ、予想通り浸透が進んでいないことが明らかとなってきた。たしかにそれらの島嶼においても近年の火葬場の建設の進展とともに遺体の火葬処理が進み、墓石様式や遺骨収蔵形式の「本土化」が一部では進むが、住民のあいだでは遺骨(遺灰)を海や山に撒くという葬法の可能性はほとんど想定されていない。このことから、墓地の所在が目常生活圏内にある沖縄県住民と、それが日常生活圏から遠く隔たっているために定期的な墓参がほとんど不可能な大都市圏住民に典型的に見出されるように、遺族と死者の物理的距離が祖先祭祀観念の強度を規定し、この祖先祭祀観念の強度が自然葬の選択と密接な関係にあると考えられる。沖縄県においては未だ浸透しがたい自然葬は他界観念と深く結びついた意味空間を形成している。人間の生の終末における高性能の遺骨処理装置である電気炉による焼成を経た遺体の一部が自然葬と呼ばれて海や山(多くの場合樹木の根元)に撒かれ、家と墓とのあいだの死者霊の往還を想定しない一方向の他界表象を提示するこめ新たな文化装置は古代的な自然葬の単純な復活ともいえない面をあわせもつ。今後調査地点を増やして仮説の検証を進めていく。
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