本研究は、自然保護運動に端を発しつつ、一種の市民運動として展開してきたいわゆる「自然葬」運動が内包する社会・文化的意味空間を社会学的観点から解明することをねらいとしている。この狙いを達成するために当該年度においては、三つの具体的な課題を設定し、研究を進めた。 第一に、白然葬という新しい文化が、日本社会において一定の支持を集めていった社会的・文化的背景を明らがにすることであった。自然葬推進団体会員を対象とした調査データの分析結果から、伝統的宗教への懐疑、他界観念の希薄化、限定付きではあるが小家族化や親子の遠隔居住等も背景にあることが明らかとなった。また、実施団体の機関紙の会員投稿記事の一部分析から導いた仮説、すなわち自然葬はアニミズムへの回帰が根底に横たわる、とした当初の仮説は調査のデータのふみこんだ分析からは支持されなかった。 第二の課題は、「非自然的」であるとも言える遺骨処理方式である電気炉による火葬につづく山野や海洋への散骨が「自然葬」と呼ばれるという一見奇妙な言説空間のうちに、近代以降、現代にまで続く日本の自然概念のあいまいさ・多義性が横たわっていることを明らかにすることであった。この課題については、会が発行している機関誌『再生』の言説分析を進めているところであり、その成果を研究成果報告書に盛り込む予定である。 第三の課題は、自然葬運動の思想的牽引力となってきた市民自らの葬送の「自己決定」といら思想が、イエの墓に象徴される共同態からの個人の解放をもたらす反面、人間存在の規定的条件ともいえる共同性を保証し得ないのではないかという疑問に答えを見いだすことであったが、既存の研究文献資料、自然葬推進実施団体が公表している諸資料、アンケート調査結果の分析を進めているところである。それらを相互に関連付けながら一つの結論を出し、研究成果報告書に盛り込む予定である。
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