研究概要 |
2009年度は,2008年秋以降の経済不況の影響をブラジル人住民がどのようにうけ,また,どのように対応しているかに主たる焦点をあてて,調査をおこなった。2001年以来,調査を継続している愛知県西尾市の県営住宅の自治会,住民,そして周辺自治会役員や市民団体への聞き取り調査,また,行政としてどう対応しているかを調べるために市役所の担当部署などへの聞き取り調査を実施した。もちろん,当事者であるブラジル人たちへの個別のインタビューも行った。さらには,日系ブラジル人を雇用している業務請負業者や派遣会社への聞き取りをおこない,経済不況が労働市場にあたえている影響を調査した。今年度,愛知県でも最大規模派遣会社の社員(ブラジル人)へのアンケート調査を行う計画をしており,そのための準備,また,当該派遣会社の社長さんとの打ち合わせなども継続して行ってきた。また,2008年度までの研究の成果を二つの国際学会で報告した。ひとつは,NZで行われたアジア学会の国際大会および韓国京畿道で行われた国際フォーラムにて,日系ブラジル人の子どもたちの教育に関する報告をおこなった。さらには,韓国社会学会の日韓ジョイントセッションにて日本社会学会の代表として出席し,「多文化共生施策が見落としてきたもの」というタイトルで,経済不況下のブラジル人の実態について報告を行った。これらの意義は,ブラジル人コミュニティの脆弱さをあらためて実証するものであり,しかし,それを補填するものとしての地域組織,市民団体そして,それを補助する行政支援という構図を提示することにある。それは,この経済不況下でも帰国せずに,日本に定住していく外国人住民の地域参加や地域統合のプロセスを示唆するものである。
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