重度知的障害児・者は、通常の子どもとは異なる行動・態度・表出言語の有無などから、心理学をはじめとする社会的支援の基盤となる専門的知識はその障害特徴を、「障害名」が表現するように、「知的発達の遅れ」とみなしてきた。そのため、教育をはじめとする特別な支援を必要とするニーズは、「知的発達」の程度によって決められている。したがって、重度知的障害と認定された人びとは、表出言語がないために、「知的発達」支援が肝要とされ、コミュニケーション支援を得ることはまれであった。むしろコミュニケーション能力は期待されず、行動の異常を「正常」な発達に成長を促す努力が主流である。仮に、コミュニケーション支援がなされた場合でも、「知的な遅れ」を専門家が意識してか、コミュニケーション支援に用いる手段は、身振りや絵カードなど、コミュニケーションが可能となる範囲は非常に限定的なものである。本研究では、ファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)により、通常社会で用いられる書字言語を獲得した重度「知的障害」者と呼ばれる人びと、および母親からの面接調査、そしてFCに関する海外での動向から、以下の点を明らかにした。(1)重度知的障害児・者のQOLを高めるには、FCによる言語的コミュニケーションが必要であること。(2)FCにより障害当事者の思いが発せられる言語的コミュニケーションにより、本人のパニックは減少するだけでなく、周囲の人びとが本人を理解することが可能となり、さらに普通教育による本人の成長が促されること。(3)FCによるコミュニケーション支援を可能とするには、「知能のおくれ」と理解する「知的障害」の理解ではなく、「コミュニケーション障害」と理解すべきものであること。(4)最後に、日本でのFCは筆談が主流であるが、海外の動向を見ると、音声型IT機器(VOCA)によるコミュニケーション支援が主流であり、今後の発展が期待される。
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