本年度は、「障害の社会モデル」をもとに、障害者を排除する社会構造が現代においていかに構築されているかについて、「軽度」障害者の語りをとおして、日本社会における障害問題構造を明らかにした。 (1)「軽度」障害者とは、障害の程度による定義ではなく、日常生活世界の概念枠組みから捉えた、アイデンティティ形成に関わる定義であること。(2)「軽度」障害者が語るカミングアウトの際のジレンマの存在は、現代において「排除の差別」の存在を明示していること。そして、「軽度」障害者が、健常者世界から排除されまいとする行動によって、ジレンマが生みだされていること。(3)「軽度」障害者は健常者世界の住人であり、すでに排除されている障害者(重度障害者)が、障害者世界の住人であること。「軽度」障害者と重度障害者とは「障害」の捉え方に違いがあること。(4)障害のある人を、健常者世界と障害者世界を分ける障壁は、能力主義的な近代学校教育制度から生みだされたこと。つまり、「障害者」概念の実体化は、近代学校教育制度によってなされていること。(5)「軽度」障害者にとって、常に排除の恐れがある「障害」は否定されるべきものであり、肯定的障害者観は、排除されている障害者によって支持されるが、健常者世界に住む「軽度」障害者には支持されないこと。(6)しかし、「軽度」障害者の生きづらさは、重度障害者と同様であり、ジレンマの克服のためには、肯定的障害者観を持つ「障害文化」によって連帯することによって、「排除の差別」を克服する文化の促進、および、現代における「排除の差別」の根幹を担う学校教育制度を、つまり、障害を理由として教育の場を分ける現在の教育制度を改革する必要があることが明らかとなった。
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