本研究の目的は、生活時間長期時系列データを用いて、時系列比較により、農村家族の行動変化を把握するところにある。用いるデータは、岡山県と山形県の二つの農村集落において3時点で実施された生活時間記帳調査である。3時点とは、1957年、1987年および2007年である。この50年間は高度経済成長と農業近代化によって特徴づけられる。高度経済成長と農業近代化という外部要因が、二つの農村集落における農村家族の行動をどのように変化せしめたか、あるいは、外部要因にもかかわらず変化はみえなかったのか。労働と意識を行動として措定し、ミクロレベルで把握することを目的とした。 1957年データと1987年データについてはすでに集計分析はおえている。本年度は、2007年に実施した生活時間記帳調査の集計分析と、3時点の分析結果の総合を行った。2007年の生活時間記帳調査の集計分析に関しては、各生活行動の時間量と時間帯を年齢別・性別・家族内の地位別に集計し家族経営における役割分業と時間概念を把握した。3時点め分析結果の総合は、二つの仮説の検証を目的とした。これらは、外部要因にもかかわらず、水田稲作における労働と意識には変化はみられないという視点に立って設定された仮説である。仮説(1)農業近代化のもとでも(近代社会の線型的時間概念ではなく)循環的時間概念が持続している。仮説(2)農業近代化のとで性別分業は持続している。仮説(1)に関しては、若年層に関しては成立しないことが明らかになった。彼らの非農業労働専念は家族労働からの完全な離脱をもたらしているからである。一方、仮説(2)に関しては、性別分業の持続が確認された。 以上の生活時間時系列比較の総合的考察は、『淑徳大学総合福祉学部研究紀要第44号』(平成23年3月刊)に掲載予定である。
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