(1)日本および米国における原爆の記憶の世代間継承の比較調査を行った。日本では、広島原爆忌における追悼行事・碑めぐり活動・語り部活動の調査を行った。米国ではワシントンDCの航空宇宙博物館別館に完全修復されて展示されている原爆投下機エノラ・ゲイ号の展示、原爆開発を行ったニュー・メキシコ州ロスアラモス研究所付設のブラッドバリー博物館の展示の調査を行った。日本における原爆に関する記憶が原爆によってもたらされた被害と核廃絶を中心としているのに対して、米国における原爆に関する記憶が原爆投下が太平洋戦争を終結させたこと、戦後における核開発がもつ核抑止力に焦点化されていることが確かめられた。(2)戦後継続的に行われた被爆者調査をそれ自体原爆の記憶の変遷を示す資料として読み直す作業を行った。19年度は慶應義塾大学が60年代に行った被爆者調査を中心に文献調査を行った。また文献調査にとどまらず、実際に調査に当たった研究者へのインタビュー調査も実施した。広島で調査を行った原田勝弘明治学院大学名誉教授、長崎で調査を行った下田平裕身信州大学大学院教授への聞き取りを行った。被爆者調査のなかにも、厚生省(当時)の被爆者調査との関係、被爆者運動との関係、統計的手法と生活史的方法のちがいなど、さまざまな類型がみられることが判明した。(3)原爆被害の記憶にとどまらず、戦場体験の記憶、沖縄戦の記憶、満州移民の記憶など多様な戦争体験の記憶とその継承の実態を把握するために、『戦後日本における市民意識の形成-戦争体験の世代間継承-』(慶應義塾大学出版会、2008年)を編集出版した。
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