研究概要 |
本研究の目的は、ソーシャルワーカー、ケアワーカー、看護師、保健師など、対人援助専門職の専門知(expert knowledge)とはどのように組み立てられているものかを、実証的に明らかにすることにある。 対人援助専門職の専門知は、関連専門知識、法規、状況判断、クライアントの表情の読み取り、クライアントとの会話の中での注目する言葉、助言を求めることのできる自分以外の専門家、利用可能な社会資源等々、いわば多様な情報のからんだ、複雑な対象/問題/対策像構成プロセスである点を特徴としている。 本研究の特色は、この特徴に見合う「物語状」質的データを用いることによって、対人援助専門職の専門知の分析をおこなうことにある。「物語状」質的データとは、時系列を基本としたできごとの流れとそれに関わる登場人物を主な柱としつつ、できごとに対する登場人物の解釈や評価などを含んだ複数の要因が、ある程度文脈をもつものの、しかし再整理が必要なほど散在しているタイプのデータである。「物語状」質的データは、たとえば意思決定プロセスや組織内部のシステム要件など,調査対象に内在する情報に迫るうえで効果的なデータである。 本研究で具体的に分析にかけたデータは、(1)発達障害児通園施設指導員による援助記録、(2)看護学校看護実習記録の2つである。分析にあたっては、「物語状」質的データを、非定型テキスト・データの一種ととらえ、自然言語処理およびその結果の多変量解析を援用した計量テキスト分析法を主としつつ、とくにコーパスの区切りやコーパス内での指示関係などについて、会話分析や事例分析の成果を援用してある。 分析の結果、対人援助専門職の専門知が、上記「特徴」にくわえ、(1)中長期の援助目標や心理テスト結果などの定式化されたもの、(2)(1)の中から、時々の行事などをにらみつつ、いくつかの内容に絞り込んだもの、(3)日々の会話や具体的な援助項目を日常のことばで記録したもの、の3レベルから構成されていることが、明らかとなった。
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