研究概要 |
本年度は,足尾鉱毒事件・水俣病・新潟水俣病の記憶の伝承について地蔵念仏という点から調査を進めると同時に,足尾を世界遺産にという新しい動向,そして「新潟水俣病に係る懇談会」の新潟版「もやい直し」の構想を,水俣市の「もやい直し」と絡めて考察した。地域性と具体性を捨象するかたちでの記憶化と,個人的もしくは集合的な記憶との間の緊張関係を調査から明らかにしてきた。その成果の一部は,私も委員であった上記懇談会の「中間取りまとめ」及び「最終提言書」として,社会的に還元した。共的でありながら公的に記憶を再構築するための手法として,行政への施策提言という方法は一部には有効である。 また,厳島という世界遺産の前海で展開されているマイナー・サブシステンス調査から,共同性の領域が外部の者の行為と時間的に棲み分けしていること,それにより排他的でない資源利用がみられることがわかった。やんばるの絶滅危惧種・ヤンバルクイナの保護と集落の日常生活との調査からは,ヤンバルクイナをめぐる認知め多様性と,保護意識から乖離しつつも保護を重要視する住民意識が明らかになった。 自然環境の負の記憶をつなぐために,また自然環境を維持してゆくために,ローカルな知やローカルな社会性という視点を導入することが,自然環境保全という要請を具現化するために重要であることを,「narrative(物語)」という視点を入れて検討した。
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