本年度の研究目的のうち、1.地域における「自然」認識の変容と「負の記憶」の継承に関する調査研究では、新潟におけるフィールドミュージアム事業を流域社会の形成をめざした記憶の再構築として捉え、社会環境の変化を促すものとしての事業の性格を明らかにした(印刷中)。「祈りのネットワーク」については『環境の社会学』(関ほか2009)にて、鳥越浩之の土地にあった記憶の在り方の重要性を参照しつつ、地蔵が結ぶ負の記憶の確実性について明らかにした。同時に、新潟水俣病、水俣病、足尾鉱毒問題や本州製紙黒い水事件等におけるそれぞれの被害地域の地域再生の動向についてシンポジウムを企画・コーディネートした(環境社会学会39回セミナー企画セッション)。また、新潟県内で新潟水俣病についての講演を3回行い、調査成果をフィードバックした。2.私的所有の土地が自然保護制度に所有形態を変えずに組み込まれている事例については、宮内編(2009)で論文実表したほか、ヒアリングデータの取りまとめをおこなってきたが、調査対象者の了解を得るなど、発表までに若干の作業が残っている。早い段階で冊子作成する予定である。3.自然の遺産化の功罪については、自然環境保全の文脈のみならず、広く持続可能な環境と観光という文脈を歴史的に遡りつつ考察し、観光のまなざしが向けられていた場=海浜の開発と、新たな観光のまなざしが注がれる場=山を形成するための開発という論点を整理してきた。 以上のような研究により、地域の個々の記憶を集合的な記憶とする試みのなかで、社会環境を望ましい方向へと変化させていくダイナミズム、地域において条件不利地であったゆえに残されてきた自然環境が、政策的に評価される対象となることで形成されてきた私有地の公共感覚が明らかになってきた。自然の遺産化や「負の記憶」を逆転させることで観光というオプションを得つつ地域振興しようとする自治感覚については、詳細について更なる研究を進めたい。
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