本年度の研究の成果の具体的内容に関しては、障害者と芸術関連の研究において、理論的には、障害者の方々に対するインタビュー調査による生活史分析をおこなうため、昨年度に引き続き、シカゴ学派を源流とする生活史研究の金字塔ともいえるクリフォード・ショウの『ジャック・ローラー』をとりあげ、その調査の理論的枠組み、調査方法論と生活史理論及び、具体的内容を論文「1920年代のシカゴにおける非行少年自身の物語」(藤澤、2008)において検討した。 また、日本社会学会発表「生きづらさと自己表現」(藤澤、2008)において、摂食障害者のセルフドキュメンタリーを創作するなかでの自己表現に関して考察し、論文「臨床のアート」(藤澤、2009)において、精神病院の絵画教室に関して、1960年代から現在までの変遷と、精神障害者の表現の意味、その特徴を分析した。また、彼らがどのような人間関係や社会的ネットワークを形成するなかで、表現行為を続けているのか、彼らの展覧会時の自己とその表現に関して記載した文章からも明らかにした。 上記研究の意義や重要性に関しては、従来、障害者の人間的部分を扱う生活史分析と、芸術的側面を扱う芸術活動、表現内容をリンクさせて考察された研究がみられなかったことから、人間学・心理学・社会学研究と、芸術学研究を交差させて研究をおこなった点であると考える。このようなリンクを通じてはじめて、障害に苦しむ人々が、どのような意味で、いかなる表現行為をおこない、その結果、自己肯定感をもつことが可能となるプロセスが明らかになった点が本年度の研究の重要性である。
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