本申請研究は、障害者の芸術活動に関して、調査研究と理論研究の両面から研究をおこなうものであるが、まず調査研究としては、障害を抱える人々は、社会との関係で障壁、差別を体験し、生きづらさや苦悩を感じていることがしばしばみられるが、当事者にとっての生活史におけるその意味の分析、その自己表現を見る鑑賞者はどのように感じ、さらにどのような社会的変化がひきおこされるかという点の分析をおこなった。 研究方法としては、参与観察のために来年度5月に、京都造形芸術大学付属展覧会場であるギャラリ・ーオーブにおいて、共に企画する芸術的ワークショップ及び展覧会の準備を行いながら、A精神病院の絵画教室のメンバーと指導者、ボランティア支援者、鑑賞者、病院スタッフへの聞きとり調査をおこなった。その結果は、2009年10月に日本社会学会(立教大学)において、「精神病院における「自己表現」としての絵画活動~H精神病院における絵画活動の事例より」として学会報告において発表をおこなった。 また、理論的には、社会と芸術の新しい関係を示す芸術社会学の枠組みを示すことが目的であるが、海外や国内の関連文献の収集もおこない、『文化の社会学』(井上俊、伊藤公男編、世界思想社、2009年7月)において、「芸術社会学」を執筆した。 内容は、芸術社会学の創始者であるフランスのピエール・フランカステルの『絵画と社会』に関して考察しながら、芸術社会学は、芸術を外部的要素によって説明する「制度としての芸術」という側面だけではなく、デューイが「新しい経験の様態や感受性を形成していく芸術の力」と述べているような芸術の働きにも目を向けていかなくてはならないことを示した。
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