本年度は、障害者の芸術活動について、さまざまな障害の程度と芸術活動との関連性を明らかにするなかで、特に精神障害を中心に考察し、学会発表をおこなったが、社会学と心理学との学際的研究及び、それらを総合した領域を形成する目的により日本臨床心理学会においても発表をおこなった。 上記学会発表をまとめ、また、参与観察のために今年5月に、勤務大学付属展覧会場であるギャラリー・オーブにおいて、共に企画する展覧会の準備を行っている内容を含めながら、論文「精神科病院における造形活動と患者の自己表現」を発表した。 上記論文の内容に関しては、精神病院の造形教室に関して、特に歴史的側面の分析も重視し、日本において病院内の芸術活動が始まる1960年代から現在までの変遷と、精神障害者の表現の意味、その特徴を歴史的資料、当時の映像資料等を用いながら分析した。これにあたりH精神病院をとりあげ、他の病院内の造形教室や芸術療法と比較しながら、造形教室が生じる医療・福祉の場における1960年代の文化・芸術的状況の創成期、造形教室という集団の役割、指導者やメンバー間の関係、鑑賞者や支援者の果たしている役割を中心にして分析をおこなった。さらに、アメリカやイギリス、フランスにおける芸術活動の歴史を考察し、国内の状況と、特にフランスのアトリエ・ノンフェール等海外における障害者の芸術活動との比較研究をおこなった。 上記研究の意義や重要性に関しては、障害者が芸術活動をおこなう際、その障害を否定的にとらえるのではなく、それをバネとして自己表現、他者との共感、社会的変化をもたらしている点が明らかになった点である。方法論としては、従来、生活史分析と、芸術的側面を扱う芸術活動、表現内容をリンクさせて考察された研究がみられなかったことから、人間学・心理学・社会学研究と、芸術学研究を交差させて研究をおこなった点であると考える。
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