自然災害の復旧・復興過程で生じるコミュニティーの棄損、とりわけ「働き盛り」の流出がなぜ生じるのか。現行支援制度と被災実態との乖離を中心にその原因を探り、来る東海・東南海・南海地震など巨大災害に備える施策の手がかりを提示することが本研究の目的である。初年度は各種調査から復興住宅や仮設住宅が元の居住地につくられない場合、求職流出や教育残留、介護残留などコミュニティーを棄損する現象が生じることを明らかにした。引き続き、2年目では初年度の調査途中に改正された被災者生活再建支援法の影響を能登半島地震の被災地、輪島市でみたが、きわめて限定的な効果にとどまり、地域の復興には医(医療・福祉)、職(仕事・商売)、習(教育)、住(住まい)の支援が一体的に供給されなければ効果があがりにくいことを明らかにした。これらの結果を踏まえ全国47都道府県の地域防災計画を詳細に読み込み、これから起きるであろう災害に向けて、どのような復興準備計画(事前復興計画)が策定され、過去災害の教訓がどの程度、採り入れられているかを分析した。この結果、大半の自治体は現行支援制度に沿った機械的・手続き的な復興計画しか持ち得ておらず、とりわけ復興ビジョンが描き切れていないか、地域の実態にそぐわない画一的な復興像が何の検証もなく掲げられているだけで、きわめて実践的でないことを提示した。一方、仮設住宅や避難所で学生ボランティアが拾ってきた被災者の「つぶやき」をカテゴリー別に分析することにより、良心的と捉えられていた各種支援も十分効果測定されていないことがわかった。今後は善意の支援についても政策評価的手法を採り入れる必要があると言える。
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