研究概要 |
近年における大企業における企業横断的労働組合の実態を探るために当該組合にヒアリングおよび文献資料の収集を行った。また,比較対照によって,特徴をより深く掴むために,企業規模を問わず,非正規労働者のみで組織する地域労働組合(=企業横断的組合)についてもヒアリング,文献資料の収集を行った。 大企業における企業横断的労働組合の場合には,通常,既存の企業別労働組合との対抗,確執が生じるケースが見受けられる一方,他方では,企業別労働組合が企業横断的労働組合の政策を採用する場合があった。 地域労働組合の場合には,それ以前に労働組合が存在しなかった企業の労働者が組織されるケースが殆どで,その多くは,飲食店,介護関係のサービス業である。それまで労働組合が存在しなかった企業に対して地域労働組合が賃金,雇用継続などについて団体交渉を行おうとする際,企業側がなかなか団体交渉に応じないケースがある。しかし,団体交渉が実現すると,紆余曲折はもちろんあるが,多くの場合に地域労働組合の要求が容れられるようである。ただし,それは地域労働組合の力ばかりではなく,そもそもが法律に抵触するか,その可能性があった事例が団体交渉の課題となることが多いからでもある。 最近の報道では,裁判などを契機として大企業においても法律に抵触するか,その可能性が大きい事例が改善されてゆく傾向がうかがわれるようになった。その背景には,質量ともになお僅かな力しかもたぬとはいえ,上述のような声を上げる労働組合が社会的に注目されるようになったことがあるだろう。 正規労働者を多く組織する大企業における企業横断的労働組合と非正規労働者を多く組織する地域労働組合の,それぞれの結成に当たっては,必ず,労働組合の複数団結論に多くの議論が費やされていることは注目される。そこでは,新しい労働組合と既存の企業別組合,或は産業別組合との競合関係をどう整理するか,という問題はもとより,複数団結を実践に移すことが,かえって自ら労働者の団結を阻害するのではないかという点がクリティカルになる。
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