研究概要 |
昨年度に引き続き,労働組合の活動家からヒアリングを行った。企業横断的労働組合が組織される際に,しばしば焦点となるのが複数団結論である。一企業一組合という発想が,企業横断的労働組合の結成を抑制ないし阻害してきたとすれば,それは労働市場要因説の妥当性が減少し,運動主体の側により大きな要因があることが仮説的に考えられる。 そして,この間,問題を取り巻く状況は大きく変化した。世界的な不況により,派遣切りなど非正規労働者の雇用問題が昨年末からクローズアップされてきたからである。その過程で,非正規を組織する企業横断的労働組合が急速に組織されるようになった。企業別労働組合においても産業組織においても,かかる新しい状況に対応することが大きな課題となっており,企業横断的労働組合との共闘関係がどのように組まれるかが今後注目される。 また,今日の組織化において枢要な問題となるのは,正規非正規の賃金格差である。この点について,ILO本部及びフランス総同盟本部を訪ねてヒアリングを行った。ILOは日本政府に対して性別賃金格差是正のためには女性に対してseniority creditsを付与することを勧告しているが,このことはアカデミズムでも運動においても十分に注意を払れてきたとは言いがたい。ことに日本ではしばしば同一(価値)労働同一賃金の実現のために職務給の導入が労使双方から主張されることがあるが,ILO及びフランス総同盟はそのために,seniorityの解体ではなく,拡充が必要だと考えている。年功制に対する否定的見解が立場を越えて形成されている日本の現状に対して,かかる理解は一定の示唆を投げかけるものであろう。
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