医療制度改革により、医療費自己負担が増加し、必要な医療が抑制される可能性が危惧されている。特に高齢者は慢性疾患を抱えやすく、受診時期の遅れが重篤な結果を招く可能性がある。本研究では、受療を制限する要因について、異なる医療制度を持つ日米両国の高齢者データを用いて探った。日本データは2006年のAGES(愛知老年学的評価研究)の一部(N=15302)、米国データは2003年のCommunity Tracking Study Household Surveyの一部(N=7325)を使用した。社会経済的地位をあらわす変数として年間等価所得(世帯所得を世帯人員の〓で割ったもの)を用い、受療抑制の有無や健康状態との関連を検討した。治療が必要でありながら受診しなかった者の割合は日本10%、米国12.6%であり、高所得者に対する低所得者(所得3分位)の受療抑制オッズ比は日本1.49、米国1.30であった。費用をその理由としてあげた者は日本24.4%、米国23.5%であり、低所得者ほどその割合が高かった。また「かかるほどの病気でない(日本26%、米国41.2%)」と回答した者が両国で多く、疾患の種類も踏まえた予後の検討が必要と思われた。その他の理由として、日本では「待ち時間が長い(日本28.3%、米国0.6%)」米国では「忙しい(日本10%、米国24.3%)」が多く、両国の違いも浮き彫りになった。健康状態については、両国とも低所得高齢者ほど主観的健康感が悪く、抑うつ傾向であった。受療抑制は予後の悪さとも関わっており、日本データの一部の解析によると、治療疾患のない者に比べて受診を控えた者の要介護認定は約2.3倍であった(学会発表欄参照)。受療抑制の結果、健康状態が悪化するか否かについては詳細な検討が必要であるが、受療抑制には費用以外の要因も関わっていることから、医療満足度など意識面からの調査の必要性も示唆された。
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