20年度は、AAメンバー1名、AA以外のグループメンバー1名にインタビューを実施し、それぞれのメンバーにおけるハイヤーパワーの意味とその役割、プログラムの活用の実際等を聞き取った。そのデータは現在分析し、論文としてまとめるところである。また、20年度は平成19年度日本社会福祉学会での報告でも取り上げた「他者/外部としてのハイヤーパワー」という概念の精緻化を試みた。AAにおけるメンバーの回復に大きな影響力をもつ「ハイヤーパワー」については、これまで既存宗教の神との違いが必ずしも明らかにされてこなかった。そのため、しばしばAAをカルトと同様の集団と見る誤解が生まれてきた。われわれの研究では、ハイヤーパワーをメンバーにとっての外部/他者とおき、直接現前することはないものの、もっとも基本的な部分で自己のありようを規定するものであると捉えることにより、既存宗教において表象された神(たとえば人格神としてのイエス)との違いを明らかにした。また、20年度はAAにおける人間観を、社会福祉援助におけるそれと比較し、ピア・カウンセリングの意義を捉え返す試みを行った。社会福祉援助においては、個人/主体は自立した成人のモデルで示される。実際には、クライアントは依存的な状況にあるにもかかわらず、援助実践においてはクライアントの自己決定や自己開発が強調される。AAにおいては依存的な状況は全面的に受容され、自己決定はハイヤーパワーにいわば棚上げされる。AAでは、社会福祉援助実践とは異なり、個人の自己決定や自己開発に対する価値はペンディングされるものの、そうした態度がハイヤーパワーを見いだすことに繋がり、逆説的に回復への道を開く。今年度は、AAメンバーの回復過程とハイヤーパワーの関係を考えるための、上記のような理論的整理を行った。
|