研究初年度は、札幌市内、および釧路市内の数カ所の老健施設の通所利用者の中から、早期(軽度)の認知症高齢者約50名を対象に、本人および家族から研究承諾を書面でとった上で、本研究で開発した新しい歩行運動プログラム「ふまねっと運動」を約60分、毎週1回3ヶ月間行った。実施期間は、平成19年8月から11月である。 運動機能は、timed up and goテストで評価した。認知機能は、MMSEと仮名ひろいテストを利用して評価した。この他に、運動調節機能、バランス機能の改善と認知機能との関係をみるために、加速時計を用いて歩行中の重心移動や揺らぎを計測するための装置を開発して歩行中の前後左右上下の揺れを計測した。計測は、運動プログラムの実施の前後、および中間に合計3回行った。その結果、歩幅、タイム、歩数などに現れる歩行機能は6週間で6%〜10%の有意な改善が認められた。3ヶ月間の運動プログラム終了後、認知機能については、有意な改善が認められなかったが、運動に参加していたグループは、参加していないグループに比べ、認知機能の低下が少なかった。このことから、歩行運動プログラム「ふまねっと」は、歩行機能の改善にはきわめて有効であること、認知機能の低下を予防する効果が期待できることがわかった。 二年目の研究では、ふまねっと運動を各種の高齢者施設などで実用化するために指導者の養成や各施設での講習、病院や患者対象の臨床応用および介入試験を行った。札幌市内の数カ所の老健施設において、通所利用者を対象にタッチパネル式のADAS (Alzheimer Disease Assesment Scale)を用いて、初期の認知症のスクリーニングと認知機能の測定を行った後に、定期的なふまねっと運動の継続的実施を行った。70代から80歳代の認知症の高齢者において、軽度の運動負荷で行うふまねっと運動プログラムによって、歩行機能の改善や認知機能の低下の予防が可能であることが明らかとなった。また、これは同時に、筋力の向上を伴わずに、運動の学習によって歩行機能が改善することを示唆している。高齢者においても、この「学習能力」の潜在的可能性が期待できることが明らかとなった。
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