本研究は、精神保健医療・福祉の政策および実践的課題におけるポスト脱施設化社会を支える新たな市民生活のしくみの解明と具体的提案を行うことにあり、最終年度にあたる今年度は、次の2点を軸に研究を進めた。1点目は「緩やかな支援ネットワークの形成要因」と「社会関係資本」との関連、2点目は「地域における新たな権利と義務」の検証である。 1点目の支援ネットワークの形成要因については、前年度に引き続き鹿児島市精神保健福祉交流センター等での事業の推移と克服されるべき課題について追調査を行った。当センターは平成18年の開設時より、平成16年に設立された有限会社が指定管理者として選定されサービスを行っており、精神保健医療・福祉の新しいサービス供給体制への移行の側面において注目される点でもある。この地域が他の都道府県と比較して精神科病院、家族、専門家といったことへの依存指数の高い地域であるにもかかわらず、サービスの量や範囲、利用者数を増やし、さらにネットワークの形成と発展がみられる点などは、社会関係資本の概念整理において重要な知見を得ることができた。続く2点目は、ICTの活用によるデジタル・インクルージョンの検討とともに、地域再生と個々人がエンパワメントをしていくための課題を確認した。さらにこうした事業体をCSO(市民社会組織)と位置づけ、地域社会の課題との関連性を評価する中で、総合的な地域力としての福祉的評価軸、またエンパワメントの評価軸などの開発が今後の課題として明らかになった。
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