平成21年度の成果は、地域再生におけるネイバーフッド・ガバナンスの理論構築とその実践に向けた手がかりを得たことである。毎月研究会を開催し、ネイバーフッドにおけるソーシャル・インクルージョンに向けた意思決定構造、ならびに地域再生政策と深く結びついた貧困対策を考察した。また前年度までの実地調査から得た知見について、単に英国の実態として検討するだけでなく、わが国の同様の課題との比較可能性についても研究を進めた。その一環として2010年1月22日と3月1日の2度にわって、尼崎市の担当者へのヒアリングを行った。また、2010年1月12日から14日には、前年度の実地調査においてヒアリングを行ったド・モンフェル大学副学長のヴィヴィアン・ラウンズ教授を招聘し、一般講演会と研究会を行った。ネイバーフッド・ガバナンスを有効に機能させるための政策の類型、ネイバーフッドにおける意思決定構造への市民参加の実態についてレクチャーを受けた。とりわけ、地域政治への市民参加を促進させるためにEUレベルで取り組まれている理論的フレームワークの構築作業について、貴重な情報を得ることができた。研究会ではこれらの論点について意見を交わすことができた。最後に、2010年6月から研究代表者の山本隆をはじめ、実地調査を行ったメンバーを中心として専門雑誌への論文の連載が決定している。「ネイバーフッド・ガバナンスと地域再生-日英の脈絡から-」と題したものであり、研究最終年度の成果である。この連載では、ネイバーフッド・ガバナンスと地域再生を論じるには、貧困問題の視点が不可欠であることを指摘している。日本でも同様の政策課題に取り組む場合、英国の経験からどのような示唆が得られるのかを検討したものである。
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