研究概要 |
本研究は、精神的健康が対人的状況や対人関係によってどのように変動するか、そのコヒアラントな個人差をパタン化し、パタン間にみられるポジティブ認知や自己制御変数等の因果関連性の相違を検討することにより、精神的健康感を生起させる社会-認知的なメカニズムの個人差・文化差を明らかにすることを主たる目的としている。本年度は、まず主観的充実感(SWB)やポジティブ心理学、ならびに自尊感情等の社会-認知的変数に関連する文献を収集し、内外の精神的健康をめぐる指標に関する論議の再整理に向けた準備を行った。また、大学生116名を対象とする質問紙調査を行い、1)心理的充実感、社会的充実感、感情的充実感指標やその関連の検討、および2)充実感の個人差を示すコヒアラントなパタンの抽出(Horike, et. al.,2007)と、3)状況×関係性による快適性評価のコヒアランスと制御焦点・心理的充実感の関連、(堀毛・松岡,2007)について報告を行った。1)に関しては、各充実感の側面を測定する尺度について検討を行い、心理的充実感・感情的充実感に関しては信頼性・妥当性の高い尺度を得たが、社会的充実感に関しては測定上の問題がみられ、尺度の確定には到らなかった。2)に関してはクラスタ分析により充実感に関する4パタンが抽出されたが、予測していたような充実感の側面に基づく交互作用的なパタンの相違はみられなかった。3)については、関係×状況により異なった快適さ評価を示す3クラスタが得られ、制御焦点や心理的充実感と快適さとの関連もクラスタによって異なる傾向を示し、この研究のめざすアプローチの有効性が示された。上記の調査参加者のうち71名に関しては、経験サンプリング法による日常の活動・感情評定も求めており、その結果と主観的充実感の関連については、次年度に報告予定である。また、別個に大学生263名およびその両親500名を対象とする充実感に関連する調査も行っており、その成果の一部についても次年度に報告を行う予定である。
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