本研究は、精神的健康が対人的状況や対天関係によってどのように変動するか、そのコビアラントな個人差をパタン化し、パタン間にみられる認知・感情変数の因果関連性の相違を検討することにより、精神的健康感の生起過程の個人差・文化差を明らかにすることを主たる目的としている。本年度は、議論の背景となるポジティブ心理学の最新の研究成果について、主観的充実感を軸に整理・考察し、論考として上梓した。また、昨年度行った調査をもとに、1)関係と場面による充実感評定の相違、2)日常的感情・活動傾向と心理的充実感の関連、等の研究成果を複数の学会で報告した。1)に関しては、6つの関係について12の場面での相互作用を想定し充実感を評定するよう求め、場面、関係性、交互作用の効果を個人ごとに分散分析により比較した。その結果、関係の効果が大きいことや交互作用効果と充実感に負の関連があることが示された。一方でクラスタ分析により充実感のパタンを分析すると、関係、場面、交互作用のそれぞれの効果が大きい個人クラスタが抽出され、充実感の感じ方に違いがあることも示された。現在、成人を対象とするデータについても分析を進めている。一方、2)に関しては、経験サンプリング法で得られたデータを基盤に、日常の感情傾向や活動傾向と主観的充実感の関連を検討したところ、日常の元気感と心理的充実感が関連をもち、その背後に行動接近傾向と陽性感情、行動抑制傾向と陰性感情の関連性が示された。また、日常活動において関心の高い行動に自己決定的に集中力をもって取り組む傾向があるほど、主観的充実感が高まること、個人クラスタごとに関連性に相違がみられるこども示ざれた。最終年度は、認知・感情的変数と主観的充実感の関連性について国際比較を行うとともに、コビアラント・アプローチの有効性について知見を整理する予定である。
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