研究概要 |
本研究は、精神的健康が対人的状況や対人関係によってどのように変動するか、そのコヒアラントな個人差をパタン化し、パタン間にみられる認知・感情変数の因果関連性の相違を検討することにより、精神的健康感の生起過程の個人差・文化差を明らかにすることを主たる目的としている。本年度は研究の最終年度として、まず研究の背景となるコヒアランスの考え方や、社会-認知論的パーソナリティ論の考え方について論考をまとめ、共著として上梓した(榎本・安藤・堀毛,2009)。さらに、研究のもうひとつの背景となるポジティブ心理学の発展動向についても編者として概説をまとめるとともに、編著として上梓した(堀毛,2010)。さらに具体的な研究として、昨年行った関係×場面データの処理を進め、学生250名とその父母391名から得られたデータをもとに、夫婦間・親子間の主観的well-beingやその規定因に関する検討を行い、母親のwell-beingや心理的強み・目標意識は、パートナーである父親や、子どものwell-beingに影響を与えるが、父親のwell-beingや心理的強みはそうした関連をもたないことを明らかにした(堀毛,2009ab)。また、新たに4つの個人的関係性とともに4つの集団関係性を加えた8関係×10場面について、感情的well-beingおよび心理的well-being双方に関する評定を求め、これまでの研究から主要な社会-認知変数として抽出された、自尊感情、楽観性、制御焦点からwell-beingへのパスが、関係×場面評定のクラスタによりどのように異なるかについて国際比較を行うべく、日本とともに、中国・アメリカでデータ収集を行った(日本人学生218名、中国人学生105名、米国人学生54名)。日本人学生では、集団関係をとりいれることによりクラスタが多様化するとともに、感情的・心理的well-beingに関係や場面による相違がみられること、またクラスタにより社会-認知変数のパスに相違がみられることが示されているが(堀毛、発表予定)、国際比較を含めた結果の詳細は成果報告書に記載する。3年間の研究成果を通じ、総合的に主観的well-being研究に対するコヒアラント・アプローチの有効性が示されたと考えられる。
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