研究概要 |
幼稚園年長児を対象に情動喚起刺激視聴時の体表面温度の測定をサーモグラフにより行った。同時に行った,仲間選択において,仲間から-緒に遊びたいとして選ばれる被選択数の多い子は,視聴前安静時と比べ,測定した鼻頭体表温の低下が見られなかった。一方,被選択数の少ない子は,情動喚起エピソード視聴時,その直後の安静時において,視聴前安静時に比べ鼻頭体表温が大きく低下した。このことは,仲間関係が豊かな子は情動刺激に直面しても安定的な情動を保つことのできる情動制御能力を持つのに対し,仲間関係の乏しい子は情動刺激に直面すると感情的に動揺しやすく,またそれが安静時にも容易に回復しないことを示すものである。本研究の結果は,幼児の仲間関係の基盤に情動制御の能力が関与していることを明らかにしたとともに,情動制御能力を幼児に取って測定の容易なサーモグラフにより非侵襲的な測定が可能であることを示すものである。 また,教師評定による行動尺度とビデオ視聴時の表情の表出変化の関連を見たところ,向社会のみで表情表出に差が見られた。男児や向社会性の低い幼児は課題の当初から表情表出が多い。これは課題場面に直面した時の緊張感の低さや感情の喚起のされやすさ(制御の困難さ)を示すものと考えられる。情動の制御を外的な表情表出と内的な体表温の変化の双方からとらえ、その有効性を検討していくことが重要である。
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