平成21年度は第1に記憶バイアスに関する実験的研究を行った。事件事故が発生すればマスコミの非難攻撃の対象が、個人、集団、システム、国家、文化社会へと順に変遷していくことがこれまでの新聞記事などの分析結果によって明らかになった。そこでこのようなスケープ・ゴート変遷のイメージが生じる原因について明らかにするために、刺激呈示頻数の時系列変化が主観的判断に及ぼす影響について実験を行った。刺激としては「ぬせ、へよ、めみ」等の無意味綴りを用いてこれらの単語を20分間連続呈示した。実験開始とともに呈示刺激が急増し、開始後2分でピークに達し、その後次第に減衰していった。これはマスコミ報道の記事頻数の変遷をイメージしたものである。変動パターンは全条件同じで、頻度数のみを操作した。実験の結果、高頻度刺激は過少視され、低頻度刺激は過大視されること、低頻度刺激は頻度判断のピークが時間的に後方にズレることがわかった。これはマスコミのスケープ・ゴート変遷イメージと一致した。 第2に非難記事のコーディングの自動化の精度を上げるための試みを行った。コーディング作業には多数の人手と時間がかかる。また作業がコーディングをする人の主観に左右されるために信頼性が問題となる。本年度は、信頼性の確保、効率的で簡便な分析法の開発、分析手法の妥当性向上を目標に、テキストマイニングソフト(SPSS Text Analysis for Survey)を用いた分析を試みた。対象はJR福知山線脱線事故発生翌日から3ヶ月間の新聞記事であった。記事の変遷パターンは手作業で行ったものとほぼ一致したが、非難対象毎に見ると、手作業と一致しているものと、していないものがあった。精度の高い方法の開発にはキーワード選択の方法についてさらに検討する必要がある。
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