平成22年度も第1に記憶バイアスに関する実験的研究を行った。スケープ・ゴート変遷のイメージが生じる原因について明らかにするために、刺激呈示頻数の時系列変化と刺激の持つ情動価が主観的判断に及ぼす影響について実験を行った。刺激としては快感情をもたらす写真(例えばスカイダイビング、ヨット・セーリング)や不快写真(嘔吐、乳がん)や中性写真(ティッシュペーパー、かご)を用いてこれらの写真を20分間連続呈示した。実験開始とともに呈示刺激が急増し、開始後2分でピークに達し、その後次第に減衰していった。これはマスコミ報道の記事頻数の変遷をイメージしたものである。変動パターンは全条件同じで、頻度数のみを操作した。実験の結果、不快写真は頻度知覚を増大させるが、快写真は相対的に知覚された頻度が少なく、刺激の持つ情動価が頻度知覚に影響すること、それから低頻度刺激は主観的頻度判断のピークが最も遅く現れ、その後減衰せずむしろ増加することが明らかになった。このような認知的バイアスがスケープゴートの変遷のイメージの背後にあることが示唆された。第2に非難を含むマスコミ報道に対する一般人の認知について分析した。具体的には、毎日新聞のJR福知山線脱線事故に関する新聞記事とその記事内容の説明文を映写し調査者がその説明文を読み上げた。その後1)事故の原因になった程度、2)事故に対する責任の程度、3)どの程度の非難を受けるべきかについて、0から100で判断をさせた。分析の結果、仮想的有能感が高い群は過剰な因果帰属を行う程度が高く、同乗運転士に関わる報道の重要性をより高く見積もる傾向にあることがわかった。これはネガティブな情動とスケープゴートへの非難やその変遷との関連性を示していると言える。
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