研究概要 |
本年度の目的は,集団メンバーの自己解釈が主要なリーダーシップの有効性をどのように調整,もしくは仲介するのかを明らかにすることであった。本年度は次の成果を得た。 (1)特定の集団状況とそこで出現するリーダーのタイプとの関連を,集団メンバーの自己解釈レベル(個人・関係・集合)が仲介するかどうかを実験室実験によって検討した。その結果,メンバー同士が異なる役割分担の下に集団目標達成に向けて協力する個人間協力状況では関係的自己が喚起され,それが集団維持志向・脱個人化型リーダーシップ選好に結びつくという一連の過程が示された。また,個人間比較状況と集団目標達成志向リーダー選好との負の関係を個人的自己が仲介することが示された。(2)リーダーの分配行動の有効性に対するメンバーの自己解釈レベルの調整効果を実験的に検討し,集合的自己または関係的自己優位者に対しては利得・損失とも平等分配が有効であるが,関係的自己優位者については損失がメンバーの意図的行為によるものである場合には公平分配の方が有効であることが示された。以上2つの研究は,リーダーシップ過程における関係的自己の役割を明らかにした点に大きな意義がある。(3)カリスマ的リーダーシップの一形態である自己犠牲的リーダーシップの有効性を,集団メンバーの集団同一視が調整するかどうかについて実験的に検討した。その結果,リーダーの自己犠牲的行動は,集団メンバーの集団同一視の程度に関わりなくパフォーマンスを高めることが明らかになった。ただし,集団同一視の高い集団では,自己犠牲行動が集団志向性を介してパフォーマンスを高めるのに対し,集団同一視の低い集団では,自己犠牲行動が返報への圧力の知覚を介してパフォーマンスを高めるという過程の違いが見られた。
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