本研究の目的は、社会システム正当化理論に依拠しながら、個人や集団の能力特性と対人特性の間には相補的関係(一方が高ければ、他方が低い)があるとする暗黙の信念(相補的ステオレオタイプ)が、社会的格差、もしくは格差を生み出す社会システムの維持・強化に結びつくことを検証し、格差是正への動機づけを高めるための方途を探ることにある。具体的には、日本の社会システムを構成する重要な要素である学歴主義に着目して検討を行う。今年度は、上記目的を達成するための第一段階として、以下の2点を検討した。 1 日本の学歴社会システムを正当化する動機を測定するための尺度を作成した。申請者が作成した既存の尺度項目や自由記述調査の資料を参考に、学歴社会の合理性の認識を示す項目からなる学歴社会意識態度尺度を構成した。大学生を対象に実施した調査では尺度の信頼性は十分に高く(α=0.80)、また、大学への自己同一視のうち集団成員性の重要度と正の相関、学力水準の低い大学の能力評価とは負の相関を示すなど概念的妥当性も確認された。 2 日本社会における学歴による地位差と相補的ステレオタイプが連関しているかどうか検証するため、大学生を対象に所属大学より学力が上位の大学と下位の大学を能力特性と対人特性について評価させたところ、集団レベルでも個人レベルでも相補性が認められた。上位の大学の学生は、能力は高いが社会性は低い、下位の大学の学生は、能力は低いが社会性は高いと認知されていること、上位の大学の能力評価と下位の大学の社会性評価の間、下位の大学の能力評価と上位の大学の社会性評価の間に正の相関関係がみられるなど、全体として相補的世界観を維持している傾向が確認された。
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