本研究は、ある次元での評価が高い対象は、別の次元では評価が低くなるものであるという暗黙の信念(相補的世界観もしくは相補ステレオタイプ)が、平等幻想を生成し、社会的格差や不平等を生み出す社会システムの維持に結びつくとするシステム正当化理論の主張の妥当性を日本的学歴階層社会において検証し、格差是正への動機を高める方途を探ることを目的としている。 平成22年度は、前年度までの成果を踏まえ、相補的ステレオタイプがどのような心的過程を経て学歴格差社会の容認に結びつくかを複眼的に検証した。大学生を対象に所属校より学力水準が上位の大学と下位の大学の学生について地位関連特性(能力特性)と地位無関連特性(対人特性)での評価を求め相補性の指標を作成した。併せて、学歴社会を肯定する態度、所属大学への自己同一視を測定した。回答者を所属校の劣位が顕現化する条件と優位が顕現化す条件に割り振り内集団高揚動機を操作した。その結果、上位校に対する相補的認知により内集団高揚動機との葛藤を緩和し、下位校に対する相補的認知により平等主義的世界観との葛藤を緩和するという2つの経路を通して学歴格差社会が正当化されていることが示唆された。 また、本年度は、相補的ステレオタイプの効果が顕在化しやすい境界条件についてもシナリオ実験により検討した。その結果、相補的事例への接触により成功者と失敗者の幸福格差が解消されシステムが正当化されるのは、成功と失敗が本人のコントロールの及ばない要因によってもたらされたと知覚される場合に限定されることがわかった。個人の統制感が阻害されたとき、人は外的な力により相補性原理が働くことを期待して平等幻想を維持しようとすることがうかがえた。これは、個人的統制感の強化が相補的世界観の影響を抑制し格差是正に人々を動機づけることを意味している。
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