平成19年度は、主に自分が認知バイアスの修正を行った場合に、同じ状況の他者の推論過程の推測(特に他者が認知バイアスの修正が起こると予測するかどうか)に焦点を当てて、実験を実施した。 属性推論において示される対応バイアスの修正(すなわち状況要因を考慮すること)が行われた場合に、自分と同じ状況の他者が行為者に対して行う属性推論を推測する実験を行った。その結果、属性推論において行為者の行動を属性帰属を割引く手がかりとして使用した場合に、他者はそのような手がかりを利用しないと推測する傾向が示された。しかし、状況要因を促進する実験操作が効果をもたなかったため、この点を改良した実験を行う必要がある。 さらに、否定的な出来事を経験した際に生じる合理化によって予測よりも経験するネガティブな感情が弱かった場合に、他者が同様の場面で経験する心的状態の推論において、インパクト・バイアスが弱まるかどうかを検討する実験を行った。これらの実験の結果は、実際に自分が想像したほど自分の否定的感情が強くないことを経験しても、同じ状況の他者の心的状態の予測においてはインパクト・バイアスが生じることが示され、自分の経験を利用して、他者の推測を変えないことが示された。 これらの実験の結果は、明確な結果として得られていない部分もあるものの、全体としては一貫して自分が行ったバイアスの修正や、バイアスを低減するような経験を他者についての推測には汎化しないという自己中心的な推論が生じることを示唆している。
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