本研究の目的は、関係性としての自己という視点から、自己概念を、対人的・文化的・時間的文脈から総合的に検討することである。平成20年度は(1)他者概念の複雑化測度の構築、(2)他者概念の複雑化と自己概念の対人状況即応的組織化との関係、(3)主語の相違が自己概念の状況即応的組織化に及ぼす影響についての比較文化的検討、を予定した。各テーマの研究経過は以下の通りである。 (1) 他者概念の複雑化とは、自己と対項関係にある他者がどれほど分化して自己の認知マップに位置づけられているかの程度である。平成19年度の予備調査を基に本年度は大規模調査を予定した。しかし臨床心理学の専門家を交えた共同検討から、半投影法的測度の有用性が明らかになり、本研究に於いては半投影法も含めた、よりエラボレイトされた測度構築がより生産的であるとの重要な知見を得た。 (2) 他者概念が複雑に分化している程、対人状況の違いに即応した自己概念の記述が顕著になり、またこのことは、対人状況における適応的行動と関連すると考えられるため、他者概念の複雑化を様々な適応指標との関係から検討した。本年度はこの予備段階として、(1)同じ個人であってもどのような自己概念が想起されるかは状況により異なること、(2)またその内容によって情動反応が同じ個人によっても変化することを検討した。その結果、(1)positiveな自己側面へのアクセスが求められる状況とnegativeな自己側面へのアクセスが要求される場合では、同じ個人であっても情動反応が異なり、(2)後者は前者に比べて自己評価が低く、またうつ気分などの否定的情動が支配的になること、しかしこの後positiveな自己側面へのアクセス強化をすると、自己評価や肯定的情動が再度高まることが示された。 (3) 自己記述における「主語」の様態の違いが自己概念の状況即応的組織化におよぼす影響について、日米で比較文化的検討をすべく、今年度はBurnstein教授(ミシガン大学)と実施計画を検討した。その際、東欧圏でのデータ収集が比較文化的研究に生産的との助言を得た。
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