一般に、広汎性発達障害児、ADHD児の社会性発達支援としては、「集団からの逸脱行動を減少させる」などといった適応を目指すものが多い。いわば、他者からの刺激を受動的に受け入れ、集団に適応し、安定的に生活していくことが重視されていたと言える。しかし、発達障害児は単に刺激を受容するだけの存在ではない。むしろ、他者に対して積極的に働きかけうる存在だと考えられる。また、このような向社会的行動は他児からの肯定的評価を生み出し、仲間関係を形成することに寄与すると考えられる。このような観点から、本研究は、保育の場における自閉症児、ADHD児の向社会的行動の発達を明らかにするとともに、自閉症児、ADHD児の向社会的行動が他児との仲間関係の形成、発展にどのように影響を及ぼすかという点について検討することを目的とした。 平成20年度は、6か所の保育所においてVTRを用いて、ルール遊び場面における行動観察を実施した。具体的には、3歳児、4歳児、5歳児クラスにおいて、同一テーマのルール遊びを実施し、自閉症児、ADHD児、「気になる」子どもの「集団参加行動」「逸脱行動」「向社会的行動」の生起と他児の「向社会的行動」「否定的行動」を記録した。その結果、(1)ルール自体が分かりやすく、必ずしも他者との協力が求められないルール遊びであれば、年少児でも参加可能であること。(2)ルール遊びが楽しいと感じられると遊びへの参加が増加し、逸脱行動が減少すること、(3)個人の勝ち負けのルール遊びよりも、集団の勝ち負けのルール遊びの方が参加しやすいとともに向社会的行動が生起しやすいこと、(4)5歳児クラスの後半では、知的な要素を伴うルール遊びの方が「気になる」子どもの興味を引きやすいことなどが、示唆された。
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