(1)すでに収集済みであった複数の調査データの中から、文字式による論証の際に大学生が示していた不適切な文字式使用を取り出し、それらを詳細に分類し、典型的なものを特定した。それは加藤国男(1965年)のいう『文字の値の同一性』への考慮を欠いたことによる不適切な文字式使用であるとの誤用であると考え、このタイプの出現率を左右する要因について総括的に分析を行ない、その結果を論文にまとめに(小野寺、2007年)。それによれば、この種の誤用は、具体的事物の個数に関する問題文脈の下では抑制される傾向にある、といえる。 このことから、具体的な事物の個数に関する数量関係する論証問題では、高校生においても、同様の誤りが抑制され、適切な文字式手使用が促進されることが予測されたので、そのことの確認のために、すでに収集済みの高校生を対象とした調査データを同様の観点から分析した。結果は、おおむねその予測を支持するものであるように思われる。しかし、分析結果についてはさらに精査する必要があり、論文としてまとめるにはいたっていない。 上記(1) (2)の結果より、中学校での初めての文字式学習、文字式を苦手とする高校生による再学習(補習)を支援するためには、学習が一定の水準にいたるまでは、文字式学習は、具体的な数量との対応を維持しつつ進められるべきである、という暫定的な教授原則が導かれた。この教授原則にそって、中学生向けの、あるいは高校生向けの教材の核となりうる文字式問題、発問等の試作に着手し、目下、継続中である。その一部については、高校卒業の有職成人を対象に試行済みである。
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