研究概要 |
入園後の幼児の生活を,家庭から園への「環境移行期」,幼稚園での「適応期」,園から小学校への「移行準備期」の3つの段階から捉え,本年度は,「適応期」の向社会性の発達と社会化の過程を検討した。具体的には,4歳児クラスの進級児(H20年度3歳入園児)を対象とし,child×environmentモデルを基に,(1)仲間・教師との相互作用(仲間との相互作用スタイル・仲間関係・子ども-保育者の関係),(2)向社会性の個人差(向社会性についての価値観・効力感)を評定した。その結果,子育て支援状況と社会的行動との関連については,(1)入園前後で子育てに対して周囲から道具的サポートが得られている母親の子どもは,入園後友だちへの援助が多く,攻撃行動が少なく,環境移行がスムーズであり,(2)母親への情緒的サポートの低さは,即時に子どもの社会的行動へは関与はみられないが,適応期の子どもの攻撃行動を高める傾向にあること,が明らかになった。さらに,養育態度・母子関係と社会的行動との関連については,(3)母親の統制(子どもの意思と関係なく,母親が子どもにとってよいと思う行動を決定し,それを強制する傾向)が高い場合,移行期には影響がみられないが,適応期の仲間関係に影響を与え,仲間への援助行動が少ない。(4)さらに,統制が高い場合,移行期には仲間からの援助を必要とするが,適応期では仲間への援助回数が少なく,向社会的な相互作用が芽生えていない。一方,(5)母親の応答性(子どもの意図・欲求に基づき,愛情のある言語や身体的表現を用いて,子どもの意図をできる限り充足させようとする傾向)が低い場合,移行期では友だちへの攻撃行動が多い傾向にあることが明らかになった。以上の結果から,環境移行期・適応期において,子どもが仲間と適切な相互作用が持てないことには,母親の統制の高さ,応答性の低さが関与していることが示唆された。
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