本研究は、障害理解を促進するための教育内容、方法を明らかにするために視覚障害歩行シミュレーション体験の効果に関する実験的検討及び点字触読シミュレーションの効果に関する実験的検討を行ったものである。本研究の結果から、視覚障害歩行シミュレーション体験の内容や時間の長さについて、教育場面で活用できる具体的な提案をすることができた。すなわち、目隠しをして歩く視覚障害歩行シミュレーション体験は、人通りの少ない、階段のない平地を30分程度歩くことが障害理解の促進には最も効果的であること、人通りの多い、起伏のあるルートを10分程度歩く体験が最も恐怖心と不安を生起させることが明らかになった。また、点字触読シミュレーションの効果に関する実験的検討の結果、難易度が低い点字(「あ・ふ・め・れ」)の学習を体験した被験者は視覚障害者の点字触読能力や特別な能力を認めなくなる傾向がみられたが、難易度が高い点字(「て・ま・む・も」)の学習ではその逆に、視覚障害者の能力を特別視する傾向が強いことが確認できた。 本研究の結果は、学校現場における福祉教育やさまざまな場面で行われている啓発活動での障害シミュレーション体験のおり方に大きな方向性を与えるものである。教育現場では総合的学習の時間が本格的にスタートしたことに伴い、子どもたちが障害者について学ぶ機会が急増しているが、「体験することが最も重要であり、体験することによって本質を心で感じることができる」といった安易な考えで体験が行われている傾向がおる。障害や障害者について教えるうえで、シミュレーション体験は有効な手段の一つであるが、効果的なシミュレーションとは、単なる思いつきの体験を指すのではない。どのような内容を、どの程度の時間、いかなる手続きで行えばよいのかなどに関する具体的なシミュレーション体験の内容と方法を教師に示すことが必要となる。本研究の結果はその内容を明確に示したと言えよう。
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