研究概要 |
本研究の目的は、言語学的側面からの詳しい検討がほとんど行われていない日本語の特異的言語発達障害(Specific Language Impairment, SLI)児2例を対象とした縦断研究を行い、その言語学的特徴を明らかにするとともに、その結果をふまえて、日本語SLI児の指導法を提言することである。研究の成果を随時、国際学会で発表することによって、SLIの個別言語を超えた特徴の研究に寄与しようとする点も今回の研究の特徴である。 本年度も昨年度までと同様、SLIの子ども2名に対する、平成16年度から5年以上にわたって行ってきた縦断研究を継続した。原則として週に一回、学生または大学院生を家庭教師として派遣し、指導の過程の中で明らかになった対象児の言語の問題について、伊藤を中心にして掘り下げた言語検査課題を作成し、それを家庭教師の学生、院生が対象児の家庭において実施した。 今年度はこの縦断研究のこれまでの研究成果についてスペインで11月に開催された国際学会(2^<nd> International Conference on Clinical Linguistics)で口頭発表を行った。題名は"The acquisition of passives by means of the lexicon and compensatory strategies : a case study of Japanese Specific Language Impairment"であった。この国際学会で発表した内容は同学会のproceedingsである"Linguistics : the Challenge of Clinical Application"に掲載されている。その概要は以下のとおりである。日本語SLI児1名の受動文の獲得過程を縦断的に検討した結果、対象児は、自ら受動文理解のための補助ストラテジー発見し、それを用いて文を理解していること、また、このような補助ストラテジーを組み合わせて使用していること、などが明らかとなった。この結果から、SLI児の指導においては補助ストラテジーに着目することが重要であることが示唆された。
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