今回は以下の2つの点を中心に研究を行った。(1)情動理解については、日本における、高機能自閉症児を含めた自閉症児の情動理解に関する研究を、特に意識的な情動理解と無意識的な情動理解(自動性automacity)にわけ、検討した。その結果、意識的な情動理解については、言語を中心とする知的能力によって補償することで、自閉症児においてもある発達レベルから可能になることが、一貫して明らかにされていることを示した。他方、無意識的な情動理解は、知的発達が高くても障害を示す結果が多かった。これより、自閉症の情動理解の一次的障害を検討する上では、無意識的な情動理解(情動の自動性の理解)を調べる必要があることが明らかとなった。このことは、高機能自閉症を含む自閉症児は、この無意識的な情動理解に障害を抱えつつ、意識的な情動理解で補償する発達を行っている可能性を示唆しており、その彷徨での支援が可能であることを推察させるものであった。(2)情動表出については、その一つである自己表情表出を検討した。就学前の年長である高機能自閉症児と、それ以外の知的遅れの無い障害児を対象に、「嬉しい顔」「悲しい顔」「怒っている顔」「普通の顔」を自己表出させ、その写真を1週間後に分類させた。その結果、自閉症以外の障害児は3つのいずれの表情もチャンスレベルより高い正率を示したが、高機能自閉症児は「怒っている顔」以外はチャンスレベルより有意に高い正答率は示さなかった。自己表情表出に障害を持つことが明らかにされた。これが表出された表情の問題なのか、その理解の問題なのか、あるいは独自の表出スタイルと理解の関連の問題なのかを検討することが、支援を考える際の今後の課題である。
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