研究概要 |
本研究は,教師の勇気づけ実践が児童の学級適応過程に及ぼす影響を実験的かつ事例研究的に,すなわち質と量の両方の観点から検討することを目的としている。平成19年度は,勇気づけ実践の過程で,当該の教師(2名)と特定の抽出児童(低学年児童8名)に面接を行い,彼らの学級等に対する態度構造の変容過程を記述することを主たる目的とした。平成20年度は,その面接データの整理と考察を行うとともに,さらに別の現職教員等(計6名)に新規に勇気づけトレーニングを行い,従来のデータを加えて勇気づけ実践学級と統制学級の間の各測度における差異を検討した(低学年児童の評定尺度データは信頼性に問題があると判断されたため統計分析からは除外した)。 勇気づけトレーニングは,従来と同様に9セッション計20時間を要した。教師には,トレーニング終了時点から,各自の学級で勇気づけを実践するよう求めた。学級適応,学級雰囲気,教師期待の認知等の各測度は,実践前,実践中(1ヶ月経過時),および実践後に質問紙(小冊子)を配布して測定した。 まだ標本数が十分でないため,学級単位のデータではなく児童個人単位のデータで,条件(実践学級vs.統制学級)×測定時期(実践前vs,実践中vs.実践後)の2×3の2要因混合分散分析を実施した。その結果,「教師への態度」測度において2要因の交互作用が有意であった(F=3.02,df=2/964,p<.05)。下位検定を行うと,実践中の両学級間の評定値には差がなく,実践学級は実践中から実践後にかけて評定値の変化は認められないが,統制学級においては実践後に評定値が低下する傾向が見いだされた。この結果は,勇気づけ実践が児童の学級適応過程に肯定的な効果を及ぼすことを一部示唆しているといえるが,今後より多くの標本を加えて再吟味する必要がある。
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