本研究は、母子の共同の語りを文化的学習場面としてとらえ、親が提示し子どもが使用する情報や語り内容の国内地域差を検討することを目的とした。今年度は、語り形成の背景となると考えられる、親の発達期待と子どもの対人関係に関する評価、および子どもの他者の感情の読み取りを測るHappy Victirnizer課題の結果の関連性について検討をおこなった。東京および山口の4歳から6歳とその母親29組を対象として検討したところ、大きな地域差はみられず、全体として母親の期待や評価と子どもの社会的な認知能力の間にはずれがあることが示唆された。すなわち、母親は他児に対する思いやりや協調性の発達に大きな期待をもちそれと関連する項目の評価が高かったにもかかわらず、子どもの調査結果では対人的トラブルの加害者感情を肯定的にとらえる子どもが大部分を占めることが示された。さらに、東京と沖縄の小学校1年生から4年生の児童393名を対象としたHappy Victimizer課題の調査においても、小学生のほとんどが加害者の気持ちを察する課題を通過することはなかった。しかし、同課題を「あなただったら」と判断対象を自分に置き換えると、2年生から正当数が増加した。 このような結果から、地域を問わず子どもたちは他者感情を読みとる際に、他者の意図を論理的に推論するtheory-theory方略をとっているというよりは、ある状況では他者に対する特定の態度を、おとなとの語りなどのなかでルールとして学習しているsimulation theory方略を使用して課題解決していることが推測された。このことを踏まえ、これまで地域差を見いだしてきた母子の語りを再検討するとともに、心の理論課題の成立や親の自己-他者観の違いとの関係性から、あらためて子どもの社会的認識についての生活上の指導のありかたについてさらに検討が必要であることが示唆された。
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