研究概要 |
(1)生気論的因果の中心概念である「活力」(vital force)の意味するところを検討した。大人だけでなく幼児も,「エネルギー」と「パワー」を主に身体的特性をさすものとして用いていた。「元気」が身体的特性だけでなく心理的特性をさすものとして概念化されていることは,幼児についても認められた。「活力」に対応する日本語である「元気」は,幼児期から既に,心身相関的な意味をもつものとしてとらえられているようだ。 (2)元気の摂取源と摂取メカニズムについては,顕著な発達的変化があった。元気が摂食や休息といった身体的活動から摂取されるという理解は幼児にも認められたが,気晴らしや友好的な人間関係といった心理的活動から摂取されるという理解は児童期半ば以降,顕著になった。たとえば,元気が人間関係を通じて他者から伝達されるとか,気晴らしなどによって生成・蓄積されるという説明は,児童期半ば以降に出現した。これらの結果は,生気論的因果が身体現象固有の因果装置から心と身体にまたがる現象にも適用される因果装置へと質的変容を遂げることを示唆している。さらに,この変容が心と身体の相互依存性に関する理解の発達に重要な役割を果たすことも示唆された。心因性の身体反応に気づいている幼児はそうでない同年齢児よりも,元気が身体内部で「生成される」とか「蓄積される」といった説明に言及しやすかった。 (3)保育園で日常的に作物の栽培活動に関わる経験をもつことが,生物学的現象の理解,生気論的因果の使用と関連するかどうかをみた。その結果,日常的に栽培活動を実践している園の4・5歳児は,植物の生命認識,植物の成長に関する理解だけでなく,食物の流通過程に関する理解についても,対照園の同年齢児と比べて,詳細な理解を有していることが示された。
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