本研究プロジェクトは、心理臨床家が心理療法において遭遇する困難と失敗についての理解を深めることである。本年度は、セラピストとクライエントのあいだで起こる様々なミスマッチによる治療的失敗に焦点を当てた質的分析を行い、困難な面接場面におけるセラピストの介入法に関してのプロセス分析を行うことであった。 まず、前年度に集めたインタビューデータの分析を継続し、特に共感的失敗のプロセスをモデル化した。その結果は、20年11月に開催された日本カウンセリング学会年次大会において発表した。 また心理療法における失敗に関わる海外の研究者との交流を進めた。6月には、スペインバルセロナで開かれたThe Society for Psychotherapy Researchの国際大会において、「治療的失敗」のシンポジウムを行った。その結果をもとに、同学会誌の特集を企画して編集作業を進めている。 また、心理面接における困難な場面のプロセス研究としてクライエントがセラピストに対して怒りを見せる場面を選び、その介入プロセスをモデル化する作業を開始した。 日本の臨床心理学では事例研究が中心であり、心理療法プロセスを客観的な方法により分析する研究はほとんどない。本研究は、プロセス研究および質的研究の手法を使い、あまり事例研究の対象ともなってこなかった失敗例および困難事例の面接プロセスを明らかにしている点において新たな試みである。本年度の成果は、平成21年の大会において引き続き報告予定である。
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