研究概要 |
本研究は,地域社会における子どもの心理臨床的問題の発生には,地域社会のさまざまな構造に由来する脆弱性が反映されているとの仮に基づき,A「地域物語の構造」,B「地域親子関係構造」,C「地域自己構造」の3つの解析から臨床心理学的地域支援の基盤となるモデルを得ようとするものである。平成21年度には3つの研究を次のように進めた。 A. 「地域物語構造の解析」 引き続き『"地域"には人々の語りを独自の民俗的「文脈」によって縛りコントロールしている物語構造があり,それが目に見えない形で地域-学校-家庭を,良くも悪くも繋ぐものとなって機能している』という基本仮説の実証に関運するデータを収集した。 山陰地域のスクールカウンセリング相談事例やコンサルテーションエピソードの収集を進めるとともに,対比的な「地域物語」の生成が予測される地域(東京)についても資料収集を進めた。 B. 「地域親子関係構造の解析」 親子関係について保護者、(特に母親)の「子どもに対する抵抗感」について身体的な抵抗感の内実をとらえる尺度項目を用い,これらの尺度項目から試作した調査用紙を用いて,保育者及び保護者へのアンケート調査を実施した。また地域親子関係構造の分析に質的厚みを加えていくエピソードの収集を進めた。 C. 「地域自己構造の解析」 「脆弱性-不屈性」尺度を試作するためのベースとなる子ども及び親子関係の"気になる様子"について予備調査を実施した。この分析から新たにresilience概念を援用することから地域自己構造モデルが形成できる見通しが得られた。また「声」から自己構造を分析する新たな試みについては,音声物理的な手法を心理臨床的な課題に関連づけるプロセスに技術的な問題が多いことが明らかとなり,保育者や保護者による印象評定法を試験的に導入し,その分析を行ったところより妥当な心理臨床的解釈が行える新たな可能性が見出された。
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