研究概要 |
本研究は,地域社会における子どもの心理臨床的問題の発生には地域社会のさまざまな構造に由来する脆弱性が反映されているとの仮説に基づき,A「地域物語の構造」,B「地域親子関係構造」,C「地域自己構造」の3つの解析から臨床心理学的地域支援の基盤となるモデルを得ようとするものである。平成22年度は3つの研究を次のように進め,全体的なまとめを行った。 A.「地域物語構造の解析」 『"地域"には人々の語りを独自の民俗的「文脈」によって縛りコントロールしている物語構造があり,それが目に見えない形で地域-学校-家庭を,良くも悪くも繋ぐものとなって機能している』という基本仮説の実証に関連するデータを収集・分析した。山陰地域のスクールカウンセリング相談事例やコンサルテーションエピソードを「遠野物語」の物語構造と関連づけて分析し,現代の思春期心性を読み解くポイントとなる事項を抽出した。 B.「地域親子関係構造の解析」 これまでの研究に基づき,山陰地域における家族問題を含むカウンセリング事例を総合的に分析した結果,「世代間のズレ」が子どもの心的不適応の背景要因として浮かび上がった。祖父母同居というこの地域の家族形態の特色が子どもの心的健全さを形成する方向にではなく,脆弱さを形成する要因として働きがちであることが,特に発達障害児の理解をめぐる世代間のズレの分析から実証的に示された。 C.「地域自己構造の解析」 今年度は子どもの情緒的自己制御がどのような要因と関係しているか,保育士へのアンケート調査調査により検討した。特に「情動伝染性」が「共感性」や「協調性」へと適応的に展開していく可能性についてモデル化することをめざした。情緒的自己制御と情動伝染性との関連性,認知及び象徴機能との関連などが示唆された。モデル化には観察・調査項目の追加が必要であった。以上から臨床心理学的地域支援のポイントを抽出してまとめとした。
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