【目的】今年度の調査では、3年間の高機能広汎性発達障害児者(HFPDD)の自己意識の発達的変化の調査研究の最終年として、HFPDDの自己意識の発達的特徴と発達課題を明確にすることを目的とした。 【方法】対象児者は小学生~高校生では28名を、青年期以降では5名を対象として調査した。その結果、平成17年度以降で3回の調査対象19名、2回の調査対象23名の計42名(女性13名)を分析対象とした。調査方法では、WISC-III(WAIS-III)知能検査、臨床描画法(○△□物語法と人物画)、CAT(TAT)、半構造化面接を個別に実施した。 【結果及び考察】WISC-III(WAIS-III)の結果、書語性の発達的変化から、中学校から高校への移行支援と高校以降の支援の重要性が示唆された。動作性の発達的変化から、環境的な安定感が重要である。青年期以降では、環境への適応パターンに応じた書語的能力の獲得の要素が強いことが明確になった。○△□物語法の発達的変化の結果、小学校では自由さと自信が生まれやすいが、思春期では一時的に停滞する。中学2年以降から自分自身を客観的に見つめる視点が可能になり、青年期以降物語全体の展開と想像性の豊かさが広がってくる特徴が強くなる傾向がある。なお、人物画では、不器用さについては大きな変化はなく、CAT(TAT)でも、表面的な状況認知の特性は変化しないことからも、HFPDDとしての障害特性は消失しないことが明確になった。 以上の発達的変化を通してHFPDDへの支援で重要なことは、次の2点である。第一に、HFPDDにとって環境的要因が果たす役割の大きい点である。第二に、安定した環境のもとで、HFPDDの発達的変化がより促進されるために、(1)早期からの診断と対応、(2)「成長するからこそ生じる新たな問題」への理解、(3)「心の世界」の豊かさと傷つきやすさ、(4)高校年代及び青年期以降の支援の重要性の4点が明確にされた。
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