研究概要 |
筆記表現が心身の健康に及ぼす影響に関する文化・健康心理学的研究を行った.トラウマに関する情動や思考について,自由に筆記する(自由筆記)群,認知的再体制化が促進するよう構造化された(構造化)群,統制群が,健康指標に関して,比較検討された. 実験参加者41名は,構造化開示群(14名),自由開示群(13名),統制群(14名)に配置された.実験は一日20分のセッションが3日間行われた.健康指標に関しては,ストレスホルモンとして知られる唾液中コルチゾールに加えて,外傷後ストレス反応,また,高次認知能力を反映するワーキング・メモリ容量(WMC)が測定された.測定時期は,実験前,実験2週間後,実験1ヶ月後,実験3ヶ月後の4回であった. 実験の結果,外傷後ストレス反応に関しては,測定時期に関して有意な主効果が示され,実験前から実験1. 3ヶ月後にかけて得点の低減が示された.有意な交互作用は得られなかったが,構造化開示群は統制群と比べて,大きな効果サイズが示された.WMCに関しては,群と測定時期の有意な交互作用が認められ,構造化開示群は実験前に比べて,1・3ヶ月後にかけて有意に得点の増大が認められた.統制群は,実験前に比べて,3ヶ月後に有意に得点の増大が認められた.唾液中コルチゾールに関しては,構造化開示の効果を明確に示せなかった.これらの結果から,構造化開示は,高次認知能力の増大を短期的に達成すること,外傷後ストレス反応の低減など精神的健康を増大させる可能性を有することが明らかにされた.なお,これらの結果に関しては,日本行動療法学会において発表された.
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