本研究の目的は、国際的な児童の非暴力化が提唱される中で、わが国における児童養護施設では施設内虐待と称し得る程の深刻な児童間暴力に関する臨床心理学的研究を遂行することにあった。研究実施計画では、平成19年度に各施設で子どもへの定期的聞き取り調査を行い、これに基づいて安全委員会活動を始めたので、本年度では暴力がおさまった施設で「居場所」活動と「グループ討論」を導入することで、「成長のエネルギー」を発達支援へ転じることにあった。安全委員会活動は、欧米にはない形の多人数の集団生活の形態をとるわが国の児童養護施設で、児童たちの現在の安心・安全を確保することで、成長・発達の基盤を作ることにあった。この方式の研究成果は、例えば、児童が夜尿をしなくなる、恐い夢を見なくなる、職員に添い寝を求める、友人を寮に連れてくる、これまで施設内で怯えていた年少児たちが「はじける」行動にみられた。本研究では職員達にこうした兆候が現れ得ることを予め告げておき、これを「成長のエネルギー」が出始めたサインとして、本年度の活動に移行した。 具体的内容としては、施設内の一区画を「癒しの空間」と名付け、室内遊びの道具を配置した。また定期的に「子ども会議」を開催し、子どもたちが施設に望む事をあげてもらい、それを職員たちと一緒に現実的なものにしてゆく、という活動を行った。こうした活動の意義は、これまで身体的な暴力に向かっていたエネルギーやそれへの怯えに向かわざるを得なかったエネルギーを、「癒しの空間」では児童らに共通の楽しみを味わい、楽しみの下で協調する体験をなじませることにあった。また「子ども会議」では身体化していたエネルギーを言葉にし、児童らの間に主体的に物事に取り組んだ際に、世界が応える体験を蓄積させることにあった。成果として、最初に本方式を導入した施設では、建設的かつ協調的な言語化が促進され、委員会にかかるような暴力事件は2年目で0件になった。また引き続き導入した14施設でも、第三者評価で、高い評価を受けた。こうした活動が暴力に向かっていた力を、協力と言語化という方向に向けるにあたって重要な契機になったことが以上のことより検証された。
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