児童養護施設に入所している児童の心理社会的発達の様相をとらえることが本研究の目的である。具体的には、児童および職員への面接調査や質問紙調査等によって、児童の適応の状態とそれに関わる要因を明らかにしていく。平成22年度は調査対象児童の語彙力、感情理解、実行機能、対人関係の枠組み、家族イメージ等の測定を行ったほか、新規入所児童の気質的特徴や発達検査など基礎的情報の収集も引き続き実施した。 これまでに得られている結果より、入所児童と対照児童の間には語彙力、感情理解、実行機能において有意な差が認められ、全般的に入所児童では発達の速度が遅い傾向がみられている。また、CAT(幼児・児童絵画統覚検査)を用いた家族・親イメージの測定結果においても、自己を投影させるリスの選択において対照児童との間に違いがみられた。対人関係の枠組みも一般家庭の児童のもつ枠組みとは異なることが明らかになってきたが、職員や仲間の入れ替わりや小学校への入学など対人環境の変化に応じて枠組みを柔軟に対応させている児童がほとんどである。一方、小学校に入学した児童の中には学業面での課題が大きくなりつつある生徒も出てきたことから、知的側面や社会認知的側面の発達をどのように支援していくのかが今後の課題となろう。 また、これまでの研究から、小学校低学年までに心理社会的に大きな問題を抱える児童はほとんどいなかったが、高学年にさしかかるころよりさまざまな課題に直面することも予想される。青年期への移行に際し肯定的な自己評価を維持していくためには、情緒安定性や性役割の柔軟性など子ども自身の特徴に加え社会的サポートも重要であることが予想される。今後の追跡調査により、児童養護施設入所児童の思春期青年期への移行を支える要因を明らかにしていく。
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