研究概要 |
本研究は,日本における高齢者うつ病に対する問題解決療法(Problem Solving Therapy: PST)プログラムを開発し,グループ形態によるその実施法と効果を検討することを目的とする. 平成19年度は,日本の高齢者うつ病の認知・行動的特徴に対応するPSTプログラムの治療要素を選定するという目的のもとに,まず,高齢者うつ病の有病率および文化による症状の違いのレビューを行った.その結果,日本における65歳以上の高齢者のうつ病の有病率は3.3%に上り,DSMやICDの診断基準以外の尺度や面接を用いてアセスメントした場合,13%から34%であることが明らかになった.また,文化の違いから生じたうつ病に対する理解の乏しさや受診行動の低下が示され,文化背景を含めた援助の必要性が示唆された.以上の結果を踏まえて,高齢者うつ病に関する先行研究をレビューし,日本における高齢者うつ病の認知・行動的特徴の検討を行った.その結果,高齢者うつ病は健常者に比べ,問題解決能力が低く,特に,消極的問題解決思考や回避傾向が強く,積極的問題思考や問題を解決する際の代替案を産出する能力は十分ではないという特徴が見られた. 次に,海外で行われているPSTプログラムを日本の高齢者に適用できるかどうかを検討するために,高齢者うつ病に対するPSTの症例研究を行い,高齢者うつ病の認知・行動的特徴を確認するとともに,日本の高齢者に適したPSTプログラムの治療要素を選定した.その結果,以下の構成要素が考案された.すなわち,(1)心理教育,(2)問題の同定,(3)問題への対処法の考案,(4)考案した対処法による問題解決の可能性の検討,(5)有効だと思われる対処法の実行およびその結果の評価,(6)行動活性化による自己強化および認知の変容(オプション).今後,高齢者うつ病に対するPST治療マニュアルの作成と実施法の確立が課題である.
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