研究概要 |
本研究の目的は,軽度発達障害児の認知機能を生物学的水準で客観的に評価することである.特に,発達障害の多くについて前頭葉機能の問題が指摘されていることから,本研究課題では,前頭葉機能と関連する「環境の変化」に対する認知特性を明らかにすることを目指す. 本年度は認知機能評価に用いる課題を決定するための基礎となる実験研究を行った.前頭葉機能を反映する認知機能の一つである「環境の変化に対する作業記憶の活動」を評価しうる課題として,ディストラクション効果に注目し,反応時間および事象関連脳電位(ERP)を指標として検討を行った.ディストラクション効果とは,求められている課題とは無関係な刺激属性の逸脱に注意が捕捉されることにより,求められる課題遂行が阻害される現象である.例えば,音の長さの弁別中に音のピッチが逸脱したり,図形の形を弁別中に図形の色や大きさが逸脱すると,求められている音の長さや形の弁別に要する時間が延長したり,誤答が増えたりする現象である.また,このときのERP上には,逸脱の処理を反映する反応が得られる. 聴覚刺激を用いた実験では逸脱の予測性がディストラクション効果に及ぼす影響を検討した.その結果,逸脱の出現および逸腹する特徴次元が予測可能な事態であってもディストラクション効果は生じ,かつ,その効果は予測できないときに比べて大きくなることが示された.ERPの結果から,この効果の増大は注意捕捉以降の段階での処理の質的な変容によるものと考察された.また,視覚刺激での実験では,ERPの結果から,行動反応を求められる刺激と求められない刺激でのディストラクション効果が質的に異なることが示された. これらの結果は,ディストラクション効果が個々人の認知機能,特に前頭葉機能を評価する課題として使用できる可能性を示唆している.
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